レコードの音の傾向にも影響?!ロックやジャズのスタジオ・レコーディングって、どうやっているの?by onkikan.com

音楽やレコードのファンの方はたくさんいらっしゃるかと思います。しかし、実際のプロ・ミュージシャンのレコーディング風景を見た事がある方は少ないのではないでしょうか。現代に近づくほど、レコーディング・セッションはライブとは違う形で演奏するようになりましたが、プロはどのようにレコーディングをしているのでしょうか。

今回は、ロックやジャズのスタジオ・レコーディングがどのように行われているのかをご紹介させていただきます。

 

■レコーディングの順序は、録音、ダビング、編集、トラックダウン

ポップス・ロック・ジャズなどのスタジオ録音は、基本的にベーシック録音、オーバーダビング、編集、トラックダウンの順で行われます。音楽の録音にはスタジオ録音のほかにコンサート録音がありますが、その場合はオーバーダビングがなくなることが通常です。

録音順序は昔になればなるほどシンプルになります。最初は録音とトラックダウンは分けられていませんでした。次に、録音とトラックダウンを分けで行うようになり、さらに録音がベーシック・トラック録音とオーバーダビングに分けられるようになりました。その頃は編集という作業は独立したものではなく、録音やダビングの際に合わせて行われていました。それが90年代に入ってハードディスク・レコーディングというものが行われるようになると、編集作業が独立して行われる録音が生まれるようになりました。

無論これは主流となっているレコーディングの代表例というだけで、例外はいくらでもあります。

 

■ベーシック録音では何を録音するの?

まずは、音楽の基礎となる楽器の録音が行われます。一例として、ヴォーカル、フォーリズム(ドラム、ベース、ギター、ピアノ)、プログラミング(シンセなど打ち込み音源)、ホーンセクション、ストリングスという編成の場合、ヴォーカル、フォーリズム、プログラミングがベーシック録音に相当します。

ベーシック録音の際に録音するヴォーカルは「仮歌」といって、のちに「本歌」を歌い直して差し替えられます。

プログラミングは、ベーシック録音とするか、あとからダビングとするかは任意ですが、ベーシック録音の演奏のノリなどに合わせる意味もあって、基本となるものだけは先に録音しておき、他はあとから差し替えまたはダビングになる事が多いです。

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■オーバーダビング

ベーシック・トラックが録音されたら、次にオーバーダビングが行われます。オーバーダビングは、アンサンブルの基礎となるものから先に行われるのが通常です。

ポップスやロックにギターが入る場合、1本ではなく何本も重ねられることが少なくありません。この場合、重ねるものはオーバーダビングに回されます。またギター・ソロのようなアドリブ・パートがある場合は、これもダビングとして、いくつか録音したものの中から良いテイクを選ぶ事が通常です。

管楽器セクションは、ベーシック・トラックと同時に演奏される事もありますが、オーバーダビングされる事が多いです。一方、ストリングスは、ほとんどの場合でオーバーダビングです。これは単純に録音スペースの問題で、ストリングスだけはストリングスが入る広いスタジオに場所を移してのダビングとなります。ただし、昔のジャズのウィズ・ストリングス録音や、劇伴のような場合はその限りではありません。

ヴォーカルは、現在ではベーシック・トラックで録音されたものがそのまま使われる事は少ないです。その多くはダビングで、何本ものヴォーカルを録音した後に、良いテイクを組み合わせて完成トラックを作り上げます。なお、コーラスを入れる場合、通常はヴォーカル録音後のオーバーダビングとなります。

 

■エディット

エディットが録音のどこで行われるかは録音セッション次第ですが、ハードディスク録音が全盛となった現在、エディットがまったく行われない録音は少なくなりました。良いテイクを繋ぐ、楽器同士のタイミング合わせ、ヴォーカル緒ピッチ修正…エディットで修正されるものは様々で、何らかのエディットが行われるのが常です。

エディットの便を考えると、たしかにワンフロア録音よりブース録音の方が有利です。ワンフロアでの録音であれば、ひとりが間違えたら他の人も全部アウト、しかしブース別にしてあれば間違えた人だけの修正で済むので。

 

■トラックダウン

トラックダウンを直訳すれば、トラックを落とす事。現在のレコーディングの多くは、それぞれの楽器をバラバラのトラックに録音しています。トラックダウンでは、これをステレオで聴く事が出来るよう、2つのトラック(つまりステレオ・トラック)にまとめます。

トラックダウンでは、様々なことが行われます。楽器同士のバランスを取る事、パンニングや奥行きという楽器の定位を作る事、リヴァーブやその他エフェクターをかける事など。これはレコーディング・エンジニアの音楽能力の見せ場でもあります。

 

■レコードの音質にもあらわれる録音方法の違い

録音方法は時代とともに変化しました。しかし、お互いの音が聴こえないブース別の録音が音楽的でないことは明白なのに、なぜそうするようになったのでしょうか。これは、楽器同士の音の被りを防ぐこと、そして個別に録音した譜が修正しやすい事、このふたつが大きな理由でしょう。つまり、古いから悪いとか新しいから良いという事ではなく、どちらも一長一短です。

例えば、ベーシック録音は、昔はひとつのフロアで皆が演奏しており、楽器同士の音がかぶり過ぎた場合には距離を離す、衝立を置くなどの処理が為されていました。現在では楽器ごとに別室(ブースと呼びます)に入ることが大半となりました。これはレコードの音の質感にも影響していて、現代の方が音の分離が良く、昔の方がバンドの音が良く混ざっています。ジャズで言えば、パット・メセニー『Secret Journey』とマイルス・デイヴィス『Kind Of Blue』の音質差などは、これに相当するでしょう。録音セッションは今の方が進めやすいですが、結果としてのレコードの音にとってどちらが良いかは、聴く人によるでしょう。私はだんぜんマイ…いやいや、これは聴く人それぞれの判断ですね。

また、プレーヤー皆がブースに入るようになると、お互いの生音が聴こえません。そこでヘッドフォンをしてお互いの音を聴くようになりました。ここから派生して、今ではクリック音を聴いて録音を行う事が多くなりました。ポップスやフュージョンはまずクリックを使っており、ロックも多くがそうです。ジャズの場合は、セッションによります。クリックの使用は、テンポが正確になる、ダビングしやすいなどのメリットがあります。一方、演奏はアゴーギクと言ってリズムにアクセントをつけて(あるいは自然について)グルーヴを出すものですが、クリックを使うとリズム面での演奏表現のひとつが消えるというデメリットもあります。両者の例は…これは言わない事にします。

 

レコーディングの仕方が分かったうえでレコードを聴くと、音楽の聴こえ方も変わってくるのではないかと思います。先のカインド・オブ・ブルー・セッションの録音などは、恐らくトラックダウンを別に設けておらず、いきなりステレオ録音だったのでしょう。ジョン・コルトレーンのサックス・ソロの際に、エンジニアがフェーダーをあげるのが間に合わなかった所などが聴こえたり…実際のセッション風景を想像しながら音楽を聴くのも、レコードの楽しみ方のひとつではないでしょうか。

 


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