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天才! 山中千尋(1)/澤野工房の3枚
今回はジャズ、ということで、山中千尋の澤野工房における初期の3作品について述べたいと思います。
1・『Living Without Friday』
時は15年前である2001年のことですが、筆者がいつ、どの様にして山中千尋のデビューを知ったのか、
記憶にないのですが、山中千尋のデビュー・アルバムを同年に聴いた際の衝撃度はよく鮮明に覚えて
います。
先ず、1曲目、山中千尋作による「Beverly」ですが、歌心、または詩情溢れるその曲を聴いて、春の
新緑がまぶしい街路樹群の元を散歩している、そんな錯覚を覚えました。
ピアノの技巧も申し分ない。
続く2曲目、「Girl From Ipanema」はボサノバのスタンダードですが、リズムが命の同曲を見事な
アレンジで聴かせることに驚嘆しました。
3曲目は、中島みゆきの「A Sand Ship」なのですが、演歌と言っても過言ではないその曲をエレガントに
仕上げたことに筆者は驚嘆しただけではなく、ここまでの3曲を聴いただけで、(すごい力量を持った
ジャズ・ピアニストの登場だ!)、と思いました。
アルバム・タイトル・ナンバーである「Living Without Friday」と「Stella By Starlight」を聴いたら、
筆者は先に思ったことを確信しました。
2001年と言いますと、様々な理由から大西順子が半ば引退同然な状況にあったことから、日本のジャズ・
シーンやジャズ・ファンは、大きな才能を持ったジャズ・ピアニストの登場を渇望していたのです。
それに見事に応えてくれたのが山中千尋でした。
このデビュー・アルバムをして山中千尋を「ピアノの歌姫」と称されましたが、山中千尋は、
そんな小さな器でなかったことがセカンド・アルバムで示されます。
ですが、デビュー・アルバムとなった本作、『Living Without Friday』は今、聴いても実に新鮮で、
リスナーを大いに魅了させてくれる素晴らしいアルバムです。
2・『When October Goes』
「おい、聴いたかよ、山中千尋の『When October Goes』」。
これが、2002年におけるジャズ・ファン同士が酒場で会った際の流行文句でした。
翌、2002年に山中千尋はセカンド・アルバム、『When October Goes』をリリースしました。
これがすごかった。
「Just In Time」や「I Got Rhythm」等々の楽曲で凄腕のドラマーとベーシストを迎えた山中千尋は、
激しいインタープレイの応酬を聴かせてくれます。
同アルバムには、より高度なテクニックを身につけて、大きな成長を遂げた山中千尋の姿があります。
筆者は実は2011年から山中千尋のライブから遠ざかっているのですが(2017年早々に久しぶりに山中千尋の
ライブに行きますが)、その頃までは、ほぼアンコールでこのアルバムに収められている、ハード・
ドライビング・ピアノを聴衆に堪能させる「Yagi Bushi」が演奏されていました。
この「Yagi Bushi」は、栃木県(山中千尋の出身地)と群馬県で愛されている民謡の「八木節」です。
その「八木節」をシンコペーションとポリリズムを交えた激しいインタープレイの応酬で「Yagi Bushi」に
してしまう様は、まさに圧巻。
もう、ライブでは、山中千尋がハード・ドライビングし過ぎて、調子がいい時は曲の原型がなくなります。
本作に収められている「Yagi Bushi」も名演。
大西順子が豪腕のなかにもクールなリリシズム溢れるプレイをするならば、山中千尋を追って登場した
上原ひろみは豪腕のなかにアバンギャルドさを持ち合わせており、対する山中千尋は豪腕のなかに
エレガント溢れるプレイをします。
その山中千尋の豪腕でありながらエレガント溢れるプレイを初めて世に知らしめさせたのが、本作、
『When October Goes』です。
3・『Madrigal』
そして、山中千尋は2004年に『Madrigal』をリリースしました。
この『Madrigal』にも、ハード・ドライビングしながらエレガントなプレイをする山中千尋の姿が
ありますが、前作より抑制の利いた、また、音楽的により熟達したプレイを聴かせてくれます。
「Antonio’s Joke」、「Living Time Event」、「Madrigal」と冒頭の3曲を聴けばよく分かります。
「Take Five」は、スタンダード・ナンバーですが、曲を一度解体して新たな再構築をやってのけて
いますが、本当に素晴らしいプレイと出来映え。
この『Madrigal』を山中千尋の初期の最高傑作に推す人が多いものですが、筆者もその一人です。
ただ、多くの山中千尋ファンが、この後、メジャー・レーベルに移ってからの山中千尋に少なからず
大きな戸惑いを覚えるのですが、それは、山中千尋が自身の音楽をより高度に生み出す為の模索の時期
だったことがうかがえます。
なるほど、山中千尋は豪腕のなかにエレガント溢れるプレイをするジャズ・ピアニストですが、彼女の
真の姿は、まだまだこんなものではなかったのです。
これについては、次回の稿に譲ります。
山中千尋ファン、ジャズ・ファンで今回取り上げた3作品を未聴の方は、是非、聴いてみて下さい。
素晴らしい山中千尋ワールドが展開されているのですから。
(文 葛西唯史)
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