【宅配買取OK】ソニック・ユース オルタナティヴ・ロックの先鞭とその音楽

フランク・ザッパやキング・クリムゾンが活躍し、さらに裏ではジャズもリアルタイムで進化していた60年代後半、ロックはクリエイティヴな音楽へ進化していきました。ヴェトナム戦争や人種差別問題への反発も契機となったのか個性や多様性も爆発、技術も10年前とは比べ物にならないレベルに達していました。

 そうして世界に広がる一大ムーヴメントとなったロックでしたが、それが裏目に出た部分も生まれました。これだけのムーヴを産業界が放っておくはずもなく、みるみるうちに産業化が拡大し、70年代後半となると「産業ロック」という呼び名がふさわしい音楽が量産されるようになりました。産業化はロックが元に戻っただけとも言えますが、60年代後半を通過した後、「ロック」という言葉は軽音楽のひとつのジャンルという以上の意味を持つようになっていました。エルヴィス・プレスリーやニール・セダカの音楽が産業ロックと呼ばれず、70年代後半から目立ち始めたあれらの音楽がそう呼ばれたのは、間に60年代後半から70年代初頭の先鋭化したロックがあるからでしょう。

 そして80年代初頭、隆盛をきわめた産業ロックへのカウンターのように登場したのがソニック・ユースでした。ポスト・パンク、グランジ、ノーウェイヴ、ノイズ・ロック…ソニック・ユースの音楽を形容する言葉は色々とありますが、それらの意味をすべて包含できる「オルタナティヴ・ロック」という言葉は、なるほど納得させられるものがありました。

今回はレコードを通して、ソニック・ユースの音楽に迫ってみようと思います。

●なにがオルタナティヴだったのか

Sonic Youth (Neutral, 1982)

Sonic Youth / Confusion Is Sex (Neutral, 1983)

オルタナティヴとは「別の」「代わりの」といった意味をもつ言葉ですが、オルタナティヴ・ロックとは何に対するオルタナティヴだったのでしょうか。

あとから特徴をつかまえて作った言葉でしょうから、本人たちが意識してそれを目指したわけでもなければ、指すものがひとつであったわけでもないでしょうが、最大のオルタナティヴは、産業ロックをはじめとした画一化された当時のロックに対する「オルタナティヴ」だったのではないでしょうか。

ソニック・ユースのレコード・デビューはニューヨークのインディーズ・レベールからでした。82年リリースのミニ・アルバム『Sonic Youth』が初アルバムで、そこには産業ロックとは明らかに違う特徴が含まれていました。80年代にはプログレッシヴ・ロックですら、アメリカン・ソングフォームという楽式ばかりの状態となっていましたが、この頃のソニック・ユースには、ふたつのコードをひたすら往復する曲など、アメリカン・ソングフォームに収まりきらない楽式の音楽も数多く聴かれます。協和音から外れる音をうみだすリング・モジュレーターを使ったギターのサウンド・メイクには、すでにノイズ・・ロックの予兆もあります。アフリカやネイティヴ・アメリカの音楽のような呪術的なパターンを繰り返す打楽器セクションは、ソニック・ユースのキャリアの中で最もエキセントリックですらあります。

デビュー直後となる82~83年の時点で、すでにソニック・ユースは評判を集めていました。美術でも音楽でもニューヨークが注目を集めていた時代だった事も幸いしたのかも知れません。それでもインディーズであった事は確かで、82年リリース『Sonic Youth』も83年『Confusion Is Sex』も、USオリジナルのNeutral 盤は1万円超えがあたりまえで、状態によっては3万を超える事もあるプレミア・レコードです。

●誰が演奏し、誰が支持したのか

Sonic Youth / Bad Moon Rising (Homestead, 1985)

Sonic Youth / Daydream Nation (Enigma, 1988)

85年リリース『Bad Moon Rising』まで来ると、ソニック・ユースの名前は日本にも届きました。実際、ほぼリアルタイムで日本盤までリリースされたのですが、この頃のソニック・ユースはまだインディーズであった事は驚きです。インディーズとは一般の流通に乗らないという意味でもありますが、いったい誰がこういうインディーでオルタナティヴなロックを支持したのでしょう。

アメリカには大学生が自主運営するカレッジ・ラジオという文化がありましたが、カレッジ・ラジオ全体でオルタナティヴ・ロックが頻繁に流されました。つまり、媒介者はスポンサーからの要望なしに、自主的に音楽を選択することが出来る人だったわけです。こうなると、DJ人気と資本は関係がなくなり、純粋に「好きな音楽」「推薦したい音楽」がラジオから流れるようになります。音楽が好きな彼らは、あまりに粗製乱造状態となった産業ロックへの嫌悪を感じたのかも知れません。

ソニック・ユース自身も、これら支持者と同じ社会階層にいる若者でした。リーダー格のサーストン・ムーアは大学教授の息子、ベースのキム・ゴードンはカリフォルニア大ロサンゼルス校、ギターのリー・ラナルドはニューヨーク州立大学卒業です。つまり、80年代から連なるオルタナティヴ・ロックのシーン全体を最初に作り上げたのはアウトサイダーでもワーキン・クラス・ヒーローでもなく、合衆国の教養をある程度まで身につけた中産階級の大学生だったわけです。

『Bad Moon Rising』は初期ソニック・ユースの完成形とも言える音楽で、執拗なループやギミックとして機能するノイズなど、シンプルなバンド・ロックの中に仕込まれた彼らの音楽の「オルタナティヴ」な部分が完成の域に達しています。『Daydream Nation』は一転してセッション調で、音楽教育を受けていない学生あがりのバンドならではの技術不足を露呈するも、アルバムの最後に配された「Trilogy」の3曲で、ギミックではなく楽曲自体がオリジナリティを持つ音楽を創り上げるに至りました。私がひとつだけソニック・ユースのアルバムを薦めるとしたら『Bad Moon Rising』、1曲だけ薦めるとしたら「Trilogy」です。

●インディーズ・ロックのメジャー進出がもたらしたもの

Sonic Youth / Goo (DGC, 1990)

Sonic Youth / Dirty (DGC, 1992)

ソニック・ユースは90年『Goo』からメジャー・レーベルに移籍します。この時期のソニック・ユースは自分たちの音楽が何であるか自覚し、そのインディーズな部分とメジャーな部分を意識し使い分けたように感じます。かつては混とんとしていた部分が整理され、シンプルなバンド・ロック部分とエキセントリックでノイジーな部分が明確に聴きとることが出来るようになりました。何をやっているのか分かりやすいという意味では、『Goo』と『Dirty』はソニック・ユースを代表するアルバムと言えるでしょうし、一方ではノイジーな部分ですら様式化されたようにも聴こえます。

90年代は完全にCDの時代で、LPレコードはよほどの工事課しか手にしない時代でした。それでもソニック・ユースはこのふたつのアルバムでLPレコードを生産しましたが、レコード・ブームとなった現在はプレミア化しています。

産業ロックにも素晴らしい点が色々とあり、そのひとつは技術力です。ソニック・ユース初のフル・アルバム『Confusion Is Sex』が発表された83年、ビルボードのアルバム・チャート1位となったのはマイケル・ジャクソン『スリラー』でした。マイケル・ジャクソンの歌唱力やクインシー・ジョーンズによるアレンジ、これをソニック・ユースに作れと言っても技術的にも音楽教養的にも無理でしょう。それでも、マイケル・ジャクソンよりソニック・ユースをより好ましいと感じる人が数多くいる部分に、ソニック・ユースの音楽の要点が詰まっているように感じます。プレスリーの時代から30年以上が過ぎ、洗練すると同時に牙を抜かれた英米のロック/ポップスに、60年代後半にロックに付加されたあの創造力や反発をふたたび蘇らせたもの。ソニック・ユースがロックで果たした役割とは、そういうものだったのかも知れませんね。

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