ライトニン・ホプキンス テキサス・ブルースの核心を追うレコードの軌跡|音機館大阪本店では高価買取中

テキサスというと何を思い浮かべるでしょう。タコス?カウボーイ?テキサス・レンジャー?カウボーイやテキサス・レンジャーはスポーツのチーム名としても使われており、それこそテキサスをあらわす象徴のひとつなのでしょう。どちらも肉体派の勇壮なイメージです。そして、英語だけではなくスペイン語が多く話されるヒスパニック系の住むアメリカ南部。ヒスパニックといえばタコス最高ですが、いくつかの民族が共存する土地は、強くなければ生きていけない場所でもあります。やさぐれた不良のアングロ・サクソンが、奴隷制を禁止していたメキシコ領を奪いかえして黒人奴隷制度を復活させた地でもあります。ここ、実は今回のおはなしにもかすっています。歌の詞にも出てきますし。

こうした血の気の多い肉体派の田舎町という気質は、テキサスの音楽にも繋がっているようです。古い音楽ならカントリー・ミュージックやテックス・メックス、ロックならZZトップにジョニー・ウインター、スティーヴィー・レイ・ヴォーンあたりは有名です。

ところで、テキサスのロックが持っている、カウボーイやテキサス・レンジャーとも繋がるあの独特にマッチョなセンスって、どこから来ているのでしょう。ZZ トップ、ジョニー・ウインター、レイ・ヴォーン…全員そろって素晴らしいテクニックを持つギタリストですが、音楽はやや保守、揃いも揃って声はハスキー、うまさより悪カッコよさが目立つ音楽だと僕は感じます。あのルーツとなっているのって、実はブルースではないでしょうか。

ブルースの大きなルーツのひとつに「テキサス・ブルース」というものがあります。これがテキサスのロックに直接影響した事は間違いのない所でしょう。テキサス・ロックにテックス・メックスやカントリーよりもブルースの影響が強く感じられるのは明白ですし、なにより素晴らしいテクニシャンなのに印象に残るのはその悪カッコいいディープさ…これってテキサス・ブルースの「あの人」の気質そのものに感じるのですよね。

そんなテキサス・ブルースを代表する「あの人」が、ライトニン・ホプキンスです。今回は残されたレコードを通して、ライトニン・ホプキンスの音楽に迫ってみようと思います。

テキサス・ブルースを決定づけた稲妻

The Complete Aladdin Recordings (Aladdin, 1991)
The Complete Gold Star Sessions (P-Vine, 1991)

レコードでさかのぼる事のできる年代には限界があるので、それ以前から存在していたのかも知れませんが、録音から見た初期テキサス・ブルースといえば1920年代の事。ブラインド・レモン・ジェファーソンというギター弾き語りの大名人と、テキサス・アレクサンダーというヴォーカリストが有名です。ところで、ブラインド・レモン・ジェファーソンの音楽を聴くと、そこにはテキサス・ロックに繋がるやさぐれ感などみじんもなく、むしろこれがブルースかと疑うほどにほのぼのとしたフォークに聴こえます。では、あの南部マイノリティー独特のやさぐれた悲哀はどこから?

実兄とブラインド・レモン・ジェファーソンのふたりにギターを習い、テキサス・アレクサンダーのギタリストとして活躍していた若者が、サム・ホプキンス…のちのライトニン(稲妻)・ホプキンスでした。ホプキンスって最初は純然たるギタリストだったのですね。

アレクサンダーとホプキンスのペアは南部で長い間活動していましたが、いざレコーディングとなるとアレクサンダーはロニー・ジョンソンやエディ・ラングといったシャレオツなギタリストを起用したため、ふたりの共演の録音は残っていません。なにやってんだアレクサンダー。

録音はされなかったものの、このアレクサンダーと共演していた事が、ライトニン・ホプキンスのレコード・デビューに繋がりました。ふたりの音楽を録音しようとしたアラジン・レコードのディレクターが、録音直前に刑務所から出てきたばかりのアレクサンダーにビビって彼を外してしまったのです。それでもギターがべらぼうにうまいホプキンスも高く買っていたため、ホプキンスに歌ってもらってレコーディング…こんな場当たり的な適当な仕事が、伝説のブルースマンのレコード・デビューでした。

ライトニン・ホプキンスのレコード・デビューは1946年で、そこから数年の録音はアラジンとゴールドスターというふたつのレーベルに集中しています。時にセカンド・ギタリストやピアニストなどとの共演もありますが、アコースティック・ブルースのギター弾き語りが中心。ディープなスロー・ブルース、陰鬱なだけでなく悪くて強そうなやさぐれ感、うなるような酒焼けした歌声、そして実はとんでもない馬鹿テクギターと、この時代には魅力的な録音が大量に残されています。僕が人に推薦するホプキンスは、間違いなくこの時代のものです。

現在、ふたつのレーベルに残された録音は、コンプリート盤としてCDで入手可能です。ゴールドスター録音のコンプリート盤は、なんと日本のPヴァインのお手柄。巻き三つの特殊ジャケットや詳しすぎるライナーも感涙もので、日本ではなぜかそこまでの人気ではないですが、海外ではプレミア状態になっています。

初期アルバムはアコースティック・ブルースの傑作揃い

The Roots of Lightnin’ Hopkins (Folkways, 1959)
Country Blues (Tradition, 1959)

 テキサスまたは黒人枠のローカル・スターだったライトニン・ホプキンスが、全国区どころか海外にまで名を轟かせることになったのは、1959年にLPレコードが発表されるようになってからでした。よほど売れたのか、いくつものレーベルも立て続けにホプキンスを録音し、59年だけで3つ、59年以降の3年間では10を超えるアルバムが制作される状態となりました。

その中で推薦したいのが、上記ふたつのレコードです。フォークウェイズ原盤『Lightnin’ Hopkins』は、のちに『The Roots of Lightnin’ Hopkins』と改題されて再発されましたが、ブルースのファンでこのジャケットを見た事がない人などいないであろう大名盤です。トラディション原盤『Country Blues』は、それまでディープなブルースの録音が多かったライトニンが、思いのほかリラックスして上機嫌に明るい曲も演奏しています。なるほどレモン・ジェファーソンの遺伝子ですね。

少しだけ専門的な事を書くと、ギタリストとしてのライトニン・ホプキンスの演奏システムは、モノトニック・ベースと呼ばれる奏法を軸に組み立ててあります。親指でベースを弾きながら、他の指でメロディやコードを弾くスタイルで、これでいわば一人多重演を実現しています。感情に訴えるディープな歌もブルースなら、人を惹きつける名人芸もブルース。モノトニック・ベースの使い手というギターの達人としてのホプキンスを聴くなら、59年までのアコースティック時代が最高です。

エレクトリック化とR&B への接近

Mojo Hand (Fire, 1962)
Lightnin’ Strikes (Vee Jay, 1962)
Lightnin’ Sam Hopkins (Arhoolie, 1962)

ここまで僕が書いてきた事を読んで、「ん?そうか?」と疑問を持たれた方もいらっしゃることでしょう。分かります。それって、ホプキンスの大人気アルバム『Mojo Hand』のイメージと違うからですよね?

そうです、ライトニン・ホプキンスは途中で芸の幅を広げ、「これは厳密にはブルースではないのでは?」という音楽まで披露するようになりました。62年はその象徴的な年で、エレクトリック・ブルースやバンド・ブルース、果てはR&B的な音楽にまで手を広げました。人気レコード『Mojo Hand』を聴くと分かりますが、このころはアコースティック・ギターを弾いてすら、極端にスプリング・エコーをかけた録音が多く、ギターがまるでアンプリファイしたような音になっています。このビヨンビヨン感がマディ・ウォーターズ的でまた悪カッコいいのですが。

ジャケットの強烈さもあってか、ファイアー原盤『Mojo Hand』は有名ですが、この時期のほかの推薦盤をあげるとすれば、ヴィージェイ原盤『Lightnin’ Strikes』とアーフリー原盤『Lightnin’ Sam Hopkins』。ヴィージェイ盤はのちに未発表4曲を追加して『Lightnin’ Strikes Back』として蘇りました。音楽だけを聴くのであれば、もし手に入るようであればこちらがおすすめです。アーフリー盤は、ブギやR&B調の曲まで演奏するぶっ飛びっぷり、しかも不良臭プンプン…さすがテキサス。

ちなみに、『Mojo Hand』は、ファイアーのオリジナル盤となると数万円超え、海外では10万を超える事もあるようです。アーフリー盤はオリジナルLP が今では1万円超え、状態次第では数万をつける事もあります。

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