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尺八とジャズを止揚する歴史的名盤!山本邦山『銀界』とその時代

2021/05/27

1971年、尺八の山本邦山と、菊地雅章らジャズ・ミュージシャンが共演した『銀界』というレコードがリリースされました。これは色々な意味でエポック・メイキングな作品で、保守的な傾向の強かった純邦楽を大きく開き、山本邦山の名を広く知らしめ、ジャズに日本独自の進化の可能性を示しました。『銀界』は尺八のレコードとしては異例ともいえるセールスを記録し、21世紀に入ってからもリイシューされ続け、聴き継がれています。
今回は、戦後の日本の音楽に大きな足跡を残したレコード『銀界』にまつわるお話を、色々なレコードを紹介しつつ書かせていただこうと思います。

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■尺八:琴古流と都山流

「純邦楽」と言われる音楽の多くは、江戸時代に生まれています。江戸以前にルーツがあるものもありますが、それも江戸時代になって社会制度や楽曲の整理が行われたものが多いです。
尺八の場合、鎌倉時代に興った普化尺八(いわゆる虚無僧尺八)がルーツとなっていますが、江戸時代に二代黒沢琴古という名人が尺八曲36曲を整理して古典本曲とし、これが現在の琴古流のルーツとなりました。レコードでは、琴古流では人間国宝に指定された(二世)青木鈴慕という尺八奏者のものが推薦です。
一方、明治期になって中尾都山が興したのが都山流で、都山流は現在の尺八界最大流派にまで成長しました。琴古流と都山流が、現在の尺八の二大流派となっています。大雑把に言うと、琴古流の方がより伝統を重んじる傾向に、都山流の方が革新的な傾向にあります。初代山本邦山は都山流の尺八奏者で、まさに革新の人でした。なお、初代山本邦山も人間国宝に指定されています。

おすすめレコード:
『青木鈴慕 / 尺八 琴古流本曲全集 上の巻』『同 下の巻』 (東芝, 1975)

 

■日本の戦後現代音楽の動き:西洋モダニズムと日本伝統音楽の超克

明治開国以降の日本の国是は「脱亜入欧」、しかし音楽はそう簡単にはいかず、学校では西洋音楽、学校の外に出ると日本音楽という状態が続きました。それでも産業音楽での東西融合は比較的早く進んだものの、純邦楽や芸術音楽の分野で両者の融合が本格的に試みられたのは2次大戦後でした。ここでは西洋音楽と日本音楽の衝突だけでなく、20世紀のクラシック音楽で進んでいた革新の動きも加わりました。
純邦楽における革新のひとつは、新作を作曲家に委嘱する事でした。この動きで恐らくもっとも有名な曲が武満徹「ノーヴェンバー・ステップス」でしょう。尺八/薩摩琵琶の西洋オーケストラによる協奏曲で、84年開催の「作曲家の個展」は武満徹特集での演奏は名演、名録音です。
同様の試みは山本邦山も行っており、広瀬量平作曲「尺八とオーケストラのための協奏曲」を代表作として、広瀬量平と山本邦山のコラボレーションが続きました。

おすすめレコード:
『武満徹作品集~作曲家の個展~』 (ソニー, 1984)
『山本邦山 / 日本の音 尺八』 (日本コロムビア) *「尺八とオーケストラのための協奏曲」収録

 

■芸術音楽としてのジャズのアプローチ

純邦楽やクラシックと同じことがジャズでも起きました。ジャズの模倣段階にある人にはとても無理な仕事ですが、60年代末になると、日本のジャズ界の中にそうした視点と技術を持つに至ったミュージシャンがそろい始めました。
富樫雅彦、高柳昌行、佐藤允彦などが有名ですが、ピアノの菊地雅章もそうした視点を持ったひとりでした。特に、フュージョンを脱して以降のピアノ・ソロには、アメリカのジャズの範囲をはみ出た独自の表現を持った演奏を展開しています。

おすすめレコード:
『富樫雅彦、山下洋輔 / 兆』 (日本フォノグラム, 1980)
『富樫雅彦~高柳昌行 / パルセーション』 (Paddle Wheel, 1983)
『菊地雅章 / アフター・アワーズ』 (Verve, 1994)

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■銀界へ

そして『銀界』です。尺八の日本最大流派の家元とジャズの融合は、純邦楽とクラシック、ジャズと現代音楽が試みてきた事と同じモチベーションから生まれたものでしょう。そこで行われた事は、「いま何が出来るか」「いま何をすべきか」であり、これは芸術音楽の視点です。
アーティスト・クレジットは山本邦山となっていますが、本当の主役はほとんどの曲を作曲・アレンジした菊地雅章でしょう。ジャズと他ジャンルのコラボレーションでは、ただ即興演奏しただけ、あるいはジャズのモチーフの上でサックスの代わりに尺八を吹かせるだけといった、悪い意味でのフュージョン音楽も残念ながら存在します。しかし『銀界』は、1曲ごとにアプローチを変え、何をすれば純邦楽と西洋音楽を止揚できるか、これが追及されていることが分かります。硬派な作品なのです。
日本の音楽の大きなステップとなった重要な一歩となった大仕事でした。いま聴いても、そこで試みられたことに新鮮な感動を覚えます。

おすすめレコード:
『山本邦山 / 銀界』 (フィリップス, 1971 )

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■『銀界』のレコード

日本の音楽にとって大きな一歩となった『銀界』は、尺八のレコードとして異例のセールスを記録し、幾度もリイシューされました。現在も人気が高いのは71年リリースのゲートフォールド(見開き)ジャケットのもので、帯つきで状態が良いものとなると6000円以上となる事もあるようです。以降のリイシューも、状態が良ければ平均以上の金額がつくようです。
70年前後の日本の芸術音楽は、現代音楽もジャズも純邦楽も、すばらしい作品がひしめいていますが、残念なことにリイシューされないままのものも多数あります。そうなった作品は残されたレコードがすべてです。もし、そうしたレコードをお持ちの方がいらっしゃいましたら、専門の買い取り業者に引き取り依頼をしてみてはいかがでしょうか。思わぬ金額がつく事もあるかも知れませんし、またその音楽を望んでいる人に譲るのもすばらしい事かもしれませんよ。

 

 

 

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