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これから不定期連載として、ジャズのみならず音楽そのものの不滅の金字塔、マイルス・デイヴィスについて、
主なアルバム毎に触れていきたいと思います。
今回は、初期の名盤として名高い、プレスティッジにマイルスが残した『Walkin’』、『Bags Groove』、
『Miles Davis and The Modern Jazz Giants』について記します。
マイルスの大ファンでもあればこの3枚も大好き、という方も多いのですけれど、主にジャズ初心者の方々を念頭に置いて、
この3枚について記したいと思います。
1・『Walkin’』
マイルス・デイヴィスにとって、1954年とは、創作活動に意欲溢れる年でした。
『Walkin’』に先だって、1951年の『Dig』等々があるものの、マイルスのドラッグ問題もあり、
創造性が少々弱いと言わざるをえない作品群でした。
しかし、マイルスはドラッグを断ち切り、ジャズ・シーンにカムバックを果たした1954年は、マイルス・デイヴィスが
マイルス・デイヴィスになる為の記念すべき年になりました。
本作、『Walkin’』からマイルスは、本格的にジャズ/音楽創造の世界へスタートを切りました。
アルバムは、タイトル曲である「Walkin’」から始まりますが、12小節のブルースであるものの、
いきおいマイルスのトランペットが大いに歌いまくり、マイルスは伸びやかにプレイをしています。
さて、この冒頭の「Walkin’」から、後年のマイルスがマイルスたらんとしている要素が強く押し出されています。
それは何でしょうか?
プロデューサーとしての資質・才能です。
ロックの話で恐縮ですが、レッド・ツェッペリンが2016年の今日も決して色あせせず、現在進行形の音楽であり続けている理由ですが、
それはギタリスト、コンポーザー、アレンジャーのジミー・ペイジが卓越したプロデューサーだったからです。
やはり、ミュージシャン自身が傑出したプロデューサーであると、その創造する音楽は群を抜いて素晴らしいものになります。
マイルスは、プロデューサーとして、各メンバーから音楽的・演奏アイディアを引っ張り出すことに長けていて、
冒頭の「Walkin’」からマイルスから指示を受けた各メンバーが本当に素晴らしい演奏を繰り広げ、マイルス・デイヴィスの世界を創出しています。
もう1つ、マイルスについて語っておかねばならないことがあります。
この1954年でのマイルスはトランペット奏者としてもかなり巧く、速弾きならぬ速吹きをしても指や音がぶれることはありません。
程なくして、マイルスは、トランペット奏者としての技術を放棄します。
例え、奏者としての技術を放棄しても、マイルスの音には、誰が聴いてもマイルスの音だと言うことが判る、
強力な音の記銘性を有していますが、その方が、ミュージシャンとしては勝ちなのです。
巧いミュージシャンなど掃いて捨てるほどいるのですから、ただ巧いだけのミュージシャンでいる必要はありません。
その反面で、マイルスは、この『Walkin’』から卓越したプロデューサーとして成長し、自身の音楽を永遠不滅のものとしていきます。
是非、ジャズ初心者の方は、そのことを念頭に置きながら、本作を楽しんで下さい。
2・『Bags Groove』
程なくしてマイルスは、新人ミュージシャン発掘の天才ともなりますが、新人ではないものの先の『Walkin’』と
本作のキーパーソンとなっているのは、ピアニストのホレス・シルヴァー。
ホレス・シルヴァーのファンキーなピアノ・プレイが『Bags Groove』でも大いに生かされています。
また、本作でのもう1人のキーパーソンとしてビブラフォン奏者のミルト・ジャクソン。
アルバムは、ミルト・ジャクソン作のタイトル曲、「Bags Groove」で幕を開けますが、ブルースでありながら、
ファンキーな要素があることから、たいへん楽しい作品となっています。
この『Bags Groove』では、いよいよプロデューサー、マイルス・デイヴィスが本領を発揮し、
各々のメンバーから音楽的・演奏アイディアを引っ張り出しながら、全メンバーを巧みにコントロールしています。
「Airegin」→「Oreo」→「But Not For Me」→「Doxy」と聴いて行ってみて下さい。
曲が進むにつれて、バンド演奏がひときわ高い極みに向かっていることが解ります。
1954年のマイルスは、ホレス・シルヴァーもですが、ミルト・ジャクソンと出会えたことが大きな収穫だったのではないでしょうか。
ミルト・ジャクソンのビブラフォン・プレイが本作の成功に大きな貢献を施しています。
マイルス・ファンのみならず、ジャズ・ファン、必聴の1枚です。
3・『Miles Davis and The Modern Jazz Giants』
筆者は、ショックです。このレコードを探したのですが、レコードが出てきませんでした。CDの場合、管理がおろそかですと、
CDがどこかに行ってしまうものですが、レコードは、レコードの置き場所さえ決めてそこに置いておけば、
無くならないものなのです。けれども、レコードがどこにもありません。本当にショックです。
さて、本作、『Miles Davis and The Modern Jazz Giants』は、俗に言うマラソン・セッション前の一大傑作と仕上がっています。
先ず、本作は、マイルスとセロニアス・モンクの“喧嘩セッション”で余りにも有名ですが、マイルスとモンクの確執が、
他のメンバーに緊張感を与えたが為に成功作となった、と言う話があります。
筆者も同意します。ですが、筆者は、それ以上に、マイルスが短期間でプロデューサーとして急成長をしたことにあると思っています。
そのことは、本作を聴いて頂ければ、誰にでもお判り頂けるものと思います。
マイルスがプロデューサーとして急成長したが為に、モンクのピアノ・プレイに注文をつけ、二人は相応の喧嘩状態に
なったことが推察されるのです。
ともかく、本作でもミルト・ジャクソンのビブラフォン・プレイが楽曲に大きな彩りを与え、素晴らしい作品となっています。
本作は、「’Round About Midnight」のリハーサル・バージョン(筆者は、そう呼んでいます)を除けば、
1954年12月24日に録音された全作品が緊張感みなぎる出来映えとなっており、ジャズの楽しさが満載の一大傑作アルバムとなっています。
本作も、マイルス・ファンのみならず、ジャズ・ファン、必聴の1枚です。
(文 葛西唯史)
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